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動物病院ニャンコ回想録 No.3
高橋 路子
会報が出る頃は、すっかり秋になっているとは思いますが、今ペンを握っている現在、残看厳しく、 汗だくで我が家の猫達もニョロンと長くなって寝ています。こう暑いと猫達も体調をくずしがちです。
そして、その暑さが通り過ぎ「やっと涼しくなった」と一息つく頃、体調をくずした猫達を連れ、飼い主が動物病院の門をたたくのです。その症状や病名は様々ですが、そんなある日の午後、1頭の若い猫が連れられてきました。
かかりつけのその猫は「小太郎」という、甘えん坊の茶トラでした。 まだ目が開いたばかりの小太郎を、お母さんは一生懸命育て上げ、2歳の彼はコロコロとよく太り、家の
中で大切に飼われ、ただ一度、うっかり玄関から逃げ出して3日間、ケンカに負けて傷だらけでションポリ帰ってきた事があるだけでした。
その小太郎がキャリーから出てきた瞬間、スタッフ一同、皆目を疑いました。 オロオロするお母さんにピッタリくっつく小太郎は、ゲッソリやせ細り、毛もバサバサと固まった感じで耳やあちこちに小さなハゲができてます。その上、ロから膿のようなよだれを流し、目もうつろです。
「急に随分かわったな…ひどく脱水、口内炎も…これはキチンとした検査をしなくては」そう言ってこ ちらをチラリと見た先生と目が合った私は、先生と同じ事を頭の中で思い巡らせ不安でいっぱいになりました。小太郎のレントゲンや生化学検査が進む中、先生が「例の検査も」と私に言い、私は迷わず冷
蔵庫から出してきた検査キットで小太郎の血液から分擬した血漿を調べます。結果は(+)陽性を示す ブルーのマークがクッキリと出ています。それはFIV(猫免疫不全ウイルス)つまり猫エイズ。
人のエイズウイルスの親戚にあたるウィルスで、猫同志で感染し、発症すると免疫不全を起こし、 最終的に死亡する、治療法も確立されていない伝染病です。感染経路はほとんどの場合ケンカなどによる
傷口からの感染です。小太郎は悲しい運命のイタズラで、たった3日の家出の際、ケンカによって感染 したのでした。
日本は昔から、猫を外に出して飼う習慣があり、中には「外に出さないのは猫にとってかわいそう」 と本気で考えている人の多いこと…しかし、せまく危険な日本の土壌で、外に猫を出す習慣が日本を猫
エイズウィルス感染率世界NO1にしたのです。
このウイルスが発見されたのはごく最近の1985年それからあっという間に、このウィルスは世界 中に広まったのです。日本では外猫の感染率11%というデータがあります。
つまり、10頭のうち1頭は猫エイズに感染しているのです。
純血種を飼う人は室内飼育が多く、「関係無い」と思う人もいるかもしれません、しかし、データでは 単頭飼育の家より、多頭飼育の家の感染率は何倍も高いのです。現在、猫エイズウィルスは全てが解明
されている訳ではないのですが、日本にエイズウィルスが入ってきたのは、一説では管理の悪い海外ブ リーダーから輸入した純血種が最初とも言われているのです。それが現在、日本国中に広がろうとして
いるのです。
小太郎は発症と同時にすごいスピードで症状を悪化させ通院してるうちにも、皮膚が化膿し、手術で傷口を縫い合わせてもそこから腐っていき、食事もとらず、肺炎を起こした時、小太郎の生への望みをかけていたお母さんも安楽死を涙ながらに承知したのです。
1ヶ月後一緒に飼っていた、メスの三毛猫、ハナをエイズ検査に連れてきたお母さんの(−)陰性の報告を聞いた時の少しやせた横顔に涙がひかっていたのを今でも思い出します。
それから、エイズ検査で陽性でも発症しない限りは、何ら他の猫と変わらず楽しい家族でいてくれる事を忘れないで下さい。
日頃、触れる機会の少ないウィルス疾患ですが、猫を愛する者として、そのウィルスが外に1歩足を 踏み出した時、そこかしこにある事を心にとめて、正しいニャンコライフを送りましょうね。
2000Autumnより
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